「この世にたやすい仕事はない」という本をみつける

たまたまこのタイトルが目について手に取ったのは、今後の仕事についての向き合い方を鬱々と考えている時だった。

この本を完全に仕事についての自己啓発本だと思い込んでいた。悩んでいたのでなんでもいいから参考にしたいとページを開く。
目次に5種類の仕事が記されていて「これらの仕事についてインタビューとかしたのかな?」なんて思いながら先に進める。

一番目は「みはりのしごと」というもの。
ある小説家を常に監視しているという内容に「そんな仕事、現実にありえないはず」となり、次第にこれは小説なのだと理解していった。

思い込みとは怖いもので、そこまでいかないと気付かないなんて普段は無いのだけど、よっぽど悩んでいたのか私は。

仕事についての参考本が読みたかったと残念に思いつつ、せっかくだからと読み進めて行く。

本書のあらすじは36歳の女性が、長く勤めていた専門職を辞めて次の仕事を探すべく5つの職を渡り歩く短編小説。

「みはりのしごと」の他にもバスのアナウンスに使う宣伝文を考える仕事、おかきの袋裏にある豆知識の内容を考える仕事など結構クリエイティブなこともこなしている。

実際にありえそうなこれらの仕事。
毎回、事件とまでは言えない出来事が起きて辞めることになり次の職を探す。

ここはどんな仕事内容なのか、ここでは何が起きて辞めることになるのかという期待感。主人公の仕事への向き合い方や心情の部分も面白い。

「路地を訪ねるしごと」は、またなんとも奇妙な感じの仕事。官公庁の依頼で家々を回りポスターを貼る許可を得ながら、住民の情報を集めるというもの。この話は、昨今でも話題の社会問題を思い出させ、怖い上に最後は悲しい気持ちになってしまった。

結構好きだったのが「大きな森の小屋での簡単なしごと」というもの。
最後のこの仕事をきっかけに、主人公は自分と向き合い今後の生き方をきめる。
大森林公園の小屋に警備員の様に常駐するという、なんとも退屈極まりなさそうな仕事で周りは木ばかりで人もいない。下手したら遭難するかもしれない。
そんな環境でも主人公は色々と工夫し仕事に馴染んでいくが、そこでまた何かが起きる。管理事務所のおじさんとの掛け合いや主人公の心のツッコミ部分が笑える。

どうやらドラマ化もされていたらしい本書は2015年10月に刊行されたもの。
私はこの著者を2023年の現在初めて知り、他の作品も読んでみたいと思った。
読みたい本は山のようにあるけれど、著者との出会いにまた読みたい本が増えたと喜んでいる。